本稿では、
「大学院の院試を受けるけど物理化学のおすすめの参考書や問題集ってある?」
「物理化学の問題集が多すぎてどれを使ったらいいのかわらない!」
このような疑問にお答え致します。
こんにちは。院試で京都大学大学院OBのインプロです。私も院試では物理化学が出題科目だったため、その対策を必死で行いました。ですので、お気持ちはよくわかります。
この記事を書こうと思った背景として、院試の勉強する問題集や演習書についての情報が少ないためです。当時、私も情報が少ない中で、「どのように勉強して良いかわからない!」というのが正直な意見でした。
いい参考書を選ぶことは近道にも繋がるため、良書を探して勉強した記憶があります。本稿では、その経験を活かして、院試対策として「物理化学」を取り上げてみました。ぜひ、これから院試を受ける人は参考にしてみてください。
全体的な院試の勉強法については「院試勉強法バイブル」を参考にしてみてください。貴重な院試勉強の情報が載っています。ちなみに、kindle unlimited(1ヶ月無料)利用すれば、無料で読むことができます。1ヶ月間だけ利用して解約するのもありかもしれません。
【1】参考書【全部の大学向け】
「休み時間の物理化学」は生物系、農学系、薬学系の人向けに書かれた本です。
高校で物理を学んでこなかった人向けの入門書。難解な数式や概念を省き、初歩から学ぶことができるように構成した。
化学系の人には優しすぎるので、下記の「絶対わかる」をおすすめします。
目次
1章 原子は何からできているのか
2章 分子の結合と構造
3章 物質の三態と溶液の性質
4章 酸・塩基と酸化・還元
5章 化学反応とエネルギー
6章 反応速度と平衡
7章 化学は環境を守れるか?
Amazonで中身を試し読みできます。
「絶対わかる物理化学」は、化学系の方で、物理化学が全くわからない人、又は苦手な人は一読する価値があります。上記の「休み時間の物理化学」と同じ著者です。
院試に余裕があるならば、ぜひ最初に手にとって読んで見ましょう。中身はわかりやすく浅い内容なので、とっつきやすいです。
目次
第1部 物質の運動
第2部 エネルギーと平衡
第3部 溶液の化学
第4部 界面と固体
Amazonで中身を試し読みできます。
「単位が取れる物理化学ノート」は、上記の本よりも、もう少し踏み込んだ内容です。演習問題を解きながら進めていきます。
物理化学が多少苦手という人にはおすすめの一冊です。院試だけでなく、定期試験を受ける前に読んでも良いでしょう。
【2-0】教科書 高校生~大学1年生
「アトキンス物理化学入門」は大学の物理化学への橋渡しに最適です。
高校生~大学1年生向けが対象の本です。全118ページと内容もコンパクトです。
数式を用いないで、物理化学の概念的な内容を説明してくれます。物理化学の入口から外の世界を覗かせてくれる本です。
概念的な内容だけの本はないので、貴重な一冊ではないでしょうか。
主要目次:ミクロ世界の決まりごと/マクロ世界の決まりごと/ミクロとマクロの橋渡し/気体・液体・固体の素顔/物理変化/化学変化/ミクロ世界の探りかた
ホームページで中身を試し読みできます。
【2-1】教科書【日東駒専・産近甲龍】
教科書は基本的には、あれこれ手をだすよりも、いま使っている大学の教科書をそのまま使用するのが良いと思います。
理由は、どこに何が書いてあるかわかることや、一度勉強したところがあると理解しやすいからです。
しかし、教科書が優しすぎたりすると、重要な部分が記載されていない可能性もあるため、その場合は、別の本を使用することをおすすめします。
「ベーシック物理化学」は物理化学の初学者向けです。大学で物理化学をはじめて学ぶ,1・2年生のための教科書です。200ページほどで基礎を学ぶことができます。アトキンスなどの成書で勉強する際には、このレベルの本を一冊持っておくと学習しやすいです。
Amazonで中身をチラ見できます。
「わかりやすい物理化学」は、タイトル通りわかりやすい本です。反応速度論は載っていないため、ベーシック物理化学と併用するといいかもしれません。
個人的には、アトキンスで勉強するよりも、日本人がわかりやすく書いた本で勉強することの方が効率的かもしれません。
「物理化学 (化学入門コース (2))」も初学者向けの本です。敢えて例題と演習問題が多くして、解きながら学んでいく構成にしています。個人的には好きな本です。
また、この岩波書店の教科書シリーズはわかりやすいということで評判が高いです。
原子論・分子論、熱力学を詳しく丁寧に解説しています。
【2-2】教科書【MACH・関関同立~地方国立大学】
「アトキンス 物理化学要論」は、世界的名著のアトキンス物理化学の上下のエッセンスを一冊に抽出した本です。
アトキンス上下巻が辞書的な内容になっているので、一冊になっているのはありがたいです。個人的には、上記の日本人が書いた本と併用するのがいいと思います。
主要目次:プロローグ エネルギー,温度,ボルツマン分布/気体の性質/熱力学第一法則/熱力学第二法則/相転移と相平衡/化学変化と化学平衡/化学反応速度論/量子論/原子の構造/化学結合/分子間相互作用/分子分光法/統計熱力学/磁気共鳴/高分子と分子集団/固体
前版です。
【2-3】教科書【旧帝大・東工大~東大・京大】
アトキンス物理化学」は言わずと知れた物理化学の世界的な名著です。授業で使っている人も多いのではないでしょうか。私は院試勉強で購入しました。現在は第10版まで出版されています。
確か、京大でもこの本を使っていたと思います。研究室の同期の机の上に置いてありました。
難点は翻訳のせいなのか、非常にわかりにくい部分もかなりありました。また、この本はA4サイズで持ち運びに不便です。下記の本がB5サイズなのに対して、
個人的にはあまり好きではありませんが、内容が幅広く、かつかなり詳細に書かれているので、辞書的に使うには非常にいい本でした。
個人的には、上記の日本人が書いたやさしめの本と併用するか、マッカーリサイモン「物理化学 分子論的アプローチ」と併用するといいと思います。
電気化学、熱力学、量子論、分子構造、反応速度論など詳細に書かれています。
章末問題の解答は英語版です。
マッカーリサイモン著「物理化学 分子論的アプローチ」は人気の高い本です。私も院試勉強で購入しました。
量子化学と熱力学と反応速度論はこの本が非常にわかりやすいのでおすすめです。手元にあると非常に便利です。特に上の量子化学は丁寧に説明されています。
1999年出版で、20年経つののでそろそろ改訂して欲しいです。
若干古いのが気になりますが、その古さを感じさせません。個人的にアトキンスよりかなりわかりやすかったので、購入してよかったです。個人的には一番おすすめの本です。
章末問題の解答は英語版しかありません。
「バーロー 物理化学」はアトキンスと同様に、非常に有名な本です。(余談ですが、mixiの本レビューで当時、名探偵コナンの名言としてレビューされていました。)
アトキンスやマッカーリサイモンよりも電気化学が詳細に書かれています。1999年出版で、20年経つのでこちらもそろそろ改訂して欲しいです。
章末問題の解答が日本語版があるため、問題演習を通して勉強する人には、こちらをおすすめしたいです。
気体の物理的性質、分光学、溶液、平衡、電極反応、電気・磁気的性質、回折、高分子など)を原子や電子の動きからミクロに理解しようとするものである。
そこで解析に用いられる理論は、気体分子運動論、量子力学、熱力学、対称性と群論、反応速度論、電磁気学、回折理論などである。
この他にもムーア物理化学など名著があるが、古すぎるので購入はおすすめしない。図書館で読む程度にしたほうが良い。
【3-1】問題集・演習書【地方国立・MARCH向け】
サイエンス社の「演習 物理化学」と「ライフサイエンスの物理化学演習」の両方勉強したら間違いないです。
サイエンス社「演習 物理化学」は、物理化学が苦手な人の初めての一冊に最適な本です。優しい問題を通して、体系的に問題を学ぶことができます。
解説があっさりしすぎている点がいまいちですが、各章の最初にポイントを解説している点は評価できます。わからない箇所は自分で調べなが問題を解くことになりますが確実に力は付きます。
私も最初にこの本で勉強しました。東工大の院試を一緒に受けた同期も、最初にこの問題集を使用していました。(ちなみに彼は東工大を合格していました。)
問題が非常に優しく、幅広く掲載されています。ここで、解き方を全て暗記することをお勧めます。理由は基本問題なのでどこの院試でも出題される可能性があるためです。
熱力学については、同社の化学熱力学の方が詳細に書いてあります。
物理化学が苦手な人向けに書かれた「ライフサイエンスの物理化学演習」もおすすめできます。サイエンス社のものより解説が丁寧ですが、問題はサイエンス社の「演習 物理化学」よりも難しいです。
特に丸暗記の非効率学習から脱却を目指しており、真の意味での効率的な学習法を身につけるための演習書と謳っています。
難関大学を受けるには少し心もとないですが、中堅大学(MARCH、地方国立大学)であれば、これで十分でしょう。地方国立~旧帝国大学の橋渡しにもなります。
【3-2】問題集・演習書【旧帝国大学・東工大向け】
旧帝国大学・東工大を目指すならば、サイエンス社の「演習 物理化学」を勉強した後に、下記の「右脳式 演習で学ぶ物理化学」と、「物理化学演習 第2版」で勉強することをおすすめいたします。
「演習で学ぶ物理化学」は、分子運動、熱力学と反応速度論に特化してますが、演習で学びながら勉強できるので非常におすすめします。
私も上記のサイエンス社の「演習 物理化学」を完璧にしたあとに、本問題集をメインで使用してかなりやりこみました。物理化学の知識は飛躍的に向上しました。
この問題集をマスターすれば、分子運動、熱力学と反応速度論に関しては旧帝国大学レベルの院試にも対応できます。
実際に、東工大・九大を受験しましたが、東工大・九大に関しては分子運動、熱力学と反応速度論に関しては、9割以上(ほぼ完璧に)解答できたと思います。
他にも京大の院試を受けましたが、6~7割正解できたかなという解きごたえでした。京大の院試は授業受けていないと、他大からの受験は難しいという印象でした。
分子運動については、理想気体の状態方程式、ボルツマン分布などについて学べます。
熱力学については、熱力学第一法則から第二法則、カルノーサイクル、化学ポテンシャルなどについて学べます。院試によくでるマイヤーの式も導出できるようになります。
使い方としては、問題の解き方を理解しながら、丸暗記しましょう。理解できなくても、丸暗記はおすすめします。理解が後から追いついてきます。
私はカバーを外して、解答を切り離して使用していました。カバーを外したほうが使いやすいです。
写真のようにわからない問題の解説メモを自作し、ノリで貼り付けて、この本の中で完結して勉強できるように工夫していました。
問題集には各問題の類題として、次の教科書に記載のある問題を記載してくれています。非常に丁寧でありがたいのですが、かなり古い教科書ばかりです。しかも絶版になっているものもあります。
・ムーア物理化学(第4版)
・バーロー物理化学(第5版、名探偵コナンではありません)
・アトキンス物理化学(第4版)
・カステラン(第3版)
・アルバーティー(第7版)
私は最新版の「アトキンス物理化学」と、「物理化学-分子論的アプローチ」を使用しました。
特に、「物理化学-分子論的アプローチ」は、気体分子論と熱力学と反応速度論の内容が非常にわかりやすいので、この問題集と相性が良いです。
「物理化学演習 第2版」は非常に古い本ですが、内容が濃く、解説が詳しいのでおすすめします。
熱力学と量子化学の箇所は非常にわかりやすかったです。
ここまでやれば、旧帝国大学と呼ばれるレベルの大学(北海道大学(北大)、東北大学、大阪大学(阪大)、九州大学(九大)、東京工業大学(東工大))は、合格レベルに達するでしょう。
アトキンスは教科書として非常に難しいのですが、章末問題もあり便利です。
そもそも、物理化学の演習書自体少ないので、問題があることが助かります。
苦手な部分や過去問で出題が多い部分、あれば追加で勉強すると、より理解が深まるでしょう。
【3-3】問題集・演習書【東大・京大向け】
東大・京大の勉強ですが、上記の地方国立~旧帝国大学のテキストを順番に勉強して、最後に「物理化学演習 大学院入試問題を中心に」を勉強することをおすすめします。
おすすめはサイエンス社の「演習 有機化学」⇒「右脳式 演習で学ぶ物理化学」⇒「物理化学演習 第2版」⇒「物理化学演習 大学院入試問題を中心に」です。自分のレベルに応じてスタートするテキストを選択してください。
この「物理化学演習 大学院入試問題を中心に」の問題集は購入しましたが、非常に難しかったです。
解けない問題も多数ありました。ただ、実際に京大の試験を受けた時に、このレベルの問題が多数出題されていたので、勉強するのに間違いないです。
難関大学(東京大学、京都大学)を目指すならば、勉強してみることをおすすめいたします。
東大、京大で過去問の出題が多いところは、このあたりの本で勉強してみることをおすすめします。
勉強方法
まず、過去問を見てみましょう。過去問が命です。
過去問で出題されない問題を闇雲に勉強しても時間の無駄です。落ちる可能性すらあります。
過去問をじっくり眺めて、反応速度論がでそうだ、電気化学がよく出題されているなどある程度情報を得ましょう。
その上で、出題されるトピックの問題を集中的に理解し、解いていくことが大切になります。
そして、難しい問題を最初に解くのではなく、優しい問題から理解して解いて、難しい問題に行くのが正解です。
時間があるならば、【1】で紹介している参考書については、全部読んでも良いでしょう。
その後に、【3】の問題集を解きながら、【2】でわからないところを確認するという流れで、問題の内容と解き方を理解していきましょう。
勉強方法については、以下の記事でも紹介しています。
全体的な院試の勉強
全体的な院試の勉強法については「院試勉強法バイブル」を参考にしてみてください。
情報戦と言われる院試の貴重な院試勉強方法が載っています。著者は横国大から東大大学院に進学した方です。
ちなみに、kindle unlimited(1ヶ月無料)利用すれば、無料で読むことができます。1ヶ月間だけ利用して解約するのもありかもしれません。金欠な学生にはありがたいです。
無機化学、 有機化学、高分子化学のおすすめの本についてか以下の記事を参考にしてみてください。
過去の院試対策の記事は以下を参考にしてみてください。